小鍛冶

黒頭別習

TTR能プロジェクト春公演 平成22年2月16日

黒頭

上田観正会青年研究能

16年10月30日(土)  於 上田能楽堂
小鍛冶「宜照の小鍛冶」  

 不思議な夢の告げにより、三條の小鍛冶宗近に剣を打たせるとの勅諚が出されます。勅を受けた宗近は、自分にも劣らぬ者が、共に剣を打つ相鎚を務めてくれねば不可能であると、返事を申しかねますが、重ねての宣旨に進退窮まってしまいます。
 宗近は、神力を頼む以外ないと、氏神の稲荷明神に参ります。すると、少年が宗近を呼び止め、今、下されたばかりの勅を言い当てます。
 少年は、中国では、漢の高祖、隋の煬帝、唐の玄宗皇帝の鐘馗大臣、それらの、剣の威徳。又、日本でも、日本武尊の草薙の剣の故事を話し、今、宗近が打つ剣も、それに劣らない剣であるから、心安く思っての帰宅を促します。
 宗近が、如何なる人かと尋ねると、少年は、誰であろうと、ただ頼みに思えと言い、稲荷山へ、行方も知れず、失せてしまいます。稲荷山下に住む者が、事の次第を語り、神を祭る壇の飾りの用意を促します。
 宗近が壇に上り、神に祈っていると、稲荷明神が現れ、壇に上り、主鎚の宗近に三拝の礼をすると、宗近も恐悦の心で、鎚を打ちます。打ち重ねる音は天地に響き、ついに、御剣が打ち上がり、表に「小鍛冶宗近」と、裏には「子狐」と、鮮やかに打ち入れます。このめでたい御剣を勅使に奉げ、稲荷明神は、稲荷の峯に帰ります。
 私の演能記録を見てみると、18歳の時に、「小鍛冶」を初めて演っていました。シテを演じますのは8回目でした。今回は長男宜照に演じさせますが、16歳、6回目のシテです。この頃は、最大の目標が、「キッチリ」とやること。これに尽きます。もちろん、その結果として、若いシテが力イッパイに演じる姿と、お稲荷さんのキツネが、元気にピョンピョン飛び跳ねる姿が重なり、誰が見ても心地よい「祝言」の趣になれば、嬉しい事です。そうなれば、客席も、舞台上も、その場にいる人が皆、元気になります。
 これを積み重ねて、いつの日か、「キッチリ」とやることは当たり前。問題外。気が付けば、その次を目指していてほしいと思っております。
平成16年10月30日 観正会定式能 青年研究能
「小鍛冶」シテ上田宜照によせて 

上田拓司